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メディア紹介社内勉強会CAPMからの発展
「CAPM」では、個別証券の期待リターンの推計を簡単な式で導くことができました。
個別証券の期待リターンを、市場ポートフォリオの期待リターンを、無リスク利子率を、個別証券と市場ポートフォリオに対するベータをと表すと、CAPMは次の式になります。
1960年にCAPMが提唱された後、CAPMでは説明できないさまざまな現象が観測されるようになり、CAPMを補強する、あるいは見直す形で多くの理論が考案されてきました。今回はその代表格であり、CAPMの派生系とも言えるファーマ・フレンチの3ファクターモデルについてご紹介します。
3ファクターモデル
3ファクターモデルとはCAPMを拡張したモデルであり、個別証券(株式)の期待リターンをCAPMのマーケットリスク(市場ポートフォリオ)に加えて、企業規模(時価総額)に関するリスク・ファクター:SMB (Small Minus Big)、簿価時価比率(BPR、Book-value Price Ratio)に関するリスク・ファクター:HML (High Minus Low)を加えて説明するモデルです。
3ファクターモデルはファーマとフレンチによって1993年に提唱され、ファーマ・フレンチモデルと呼ばれることもあります(Fama, E. F., & French, K. R. (1993). Common risk factors in the returns on stocks and bonds. Journal of financial economics, 33(1), 3-56. https://doi.org/10.1016/0304-405X(93)90023-5 )。
ここで、、はそれぞれSMBファクターの期待リターンと個別証券のSMBファクターに対するベータ、、はそれぞれHMLファクターの期待リターンと個別証券のHMLファクターに対するベータになります。
SMB:小型株と大型株
SMB (Small Minus Big) を企業規模(時価総額)に関するリスク・ファクターと言いましたが、ここで詳細をご説明します。
大型株(Big)・小型株(Small_の分類は企業規模を指し、時価総額の大きい株式を大型株、小さい株式を小型株と呼びます。市場では小型株効果と呼ばれるアノマリー(投資家は全員経済合理的であるという前提では説明することができないが、経験的に観測できるマーケットの規則性)が存在すると言われており、小型株は大型株よりもリターンが相対的に高くなる傾向が観察されています。
3ファクターモデルではこの小型株効果がリスク・プレミアム(収益の源泉)であるという仮説に基づいて、SMBファクターの項を個別証券の期待リターンの算出に用いています。
小型株効果の発生については諸説あるものの、小型株が大型株より倒産リスクが高いためにより高いリスクプレミアムを要求されることや、小型株を調査対象とするアナリストが少なくその成長性等について十分なリサーチが行われていないことなどが理由として挙げられています。
HML:バリュー株とグロース株
HML (High Minus Low) ファクターについてご説明します。
Highはバリュー株(割安株)を指し、Lowはグロース株(割高株)を指します。企業の時価総額に対する純資産総額の大きさを表す簿価時価比率(BPR:Book to Price Ratio)を見たときに、高いものをバリュー株(High)、低いものをグロース株(Low)と便宜的に分類します。
なお、BPRはPBR (Price to Book Ratio、株価純資産倍率) の逆数であり、BPRが高い(PBRが低い)株式がバリュー株、BPRが低い(PBRが高い)株式がグロース株となります。
過去を検証するとバリュー株はグロース株よりもリスクあたりのリターンが相対的に高くなる傾向が見られたことから、バリュー効果と呼ばれるアノマリーが存在すると言われています。3ファクターモデルではこのバリュー効果をHMLファクターとして組み入れています。
バリュー効果の原因も小型株効果と同様に、CAPMで説明できるものではありませんが、割安株は一般的に業績不振が続く企業が多くリスクが高いため、投資家が要求するリターンも高いことが理由とされることがあります。
バリュー効果と小型株効果は、投資家が経済合理的であるという仮説に反するだけでなく、「効率性とアクティブ投資」でご説明した市場が効率的であるという仮説のセミストロング・フォーム(準強度の効率性)にも反します。
セミストロング・フォームは公開情報を使ったファンダメンタル分析から将来の株価の予測ができない、という市場の効率性ですが、バリュー効果は株式を純資産と株価で区別していること、小型株効果は株式を時価総額で区別していることから、明らかに公開情報であるファンダメンタル指標を用いています。このため、バリュー効果と小型株効果はセミストロング・フォームに反していると言えるのです。
3ファクターモデルによる株式の分類
3ファクターモデルはCAPMにSMBファクターとHMLファクターを加えることで拡張したものですが、そうすることでCAPMより期待リターンの説明力が高くなることが評価され、後にノーベル賞も上昇しています。
SMLファクターとHMLファクターは、全上場銘柄を次の6つのグループに分類してそれぞれのファクターリターンを計算しています。この6つのグループに分けられたそれぞれのポートフォリオをスタイル・インデックスと呼ばれています。
時価総額:小 | 時価総額:大 | |
BPR:大(PBR:小) | 小型バリュー | 大型バリュー |
BPR:中(PBR:中) | 小型中立 | 大型中立 |
BPR:小(PBR:大) | 小型グロース | 大型グロース |
このように株式を分類することで、ある個別証券、または投資信託などの株式ポートフォリオの属性を、市場ポートフォリオとの相関だけで判断するのではなく、小型バリュー株というように詳細に分類することができます。
3ファクターモデルの活用
3ファクターモデルは現実ではどのように活用することができるでしょうか。例として2つ挙げたいと思います。
個別証券の期待リターン推計
3ファクターモデルの活用例の1つ目は、個別証券の期待リターンの算出です。CAPMの市場ポートフォリオに加え、SMBとHMLファクターを加えることでより正確な期待リターンの算出が可能となります。
具体例を考えます。マーケットデータから以下のようにそれぞれのファクターの期待リターンが得られたと想定します。具体的には市場ポートフォリオの時系列リターンを用いて、スタイル・インデックスに分類し、それぞれの値を求めることができます。
次に、個別証券のCAPMでの市場ポートフォリオに対するベータが1.3で得られたとします。また、個別証券は小型グロース株であるとすると3ファクターモデルでの各ファクターに対するベータが以下のように得られたとします。
なおCAPMは単回帰分析であるのに対して、3ファクターモデルは重回帰分析ですので、市場ポートフォリオに対するベータの値が両モデルで異なってくることにご注意ください。
CAPMと3ファクターモデルを使って、個別証券の期待リターンを計算します。
CAPMで推計した個別証券の期待リターンは8.94%、3ファクターモデルで推計した期待リターンは9.00%となりました。真の期待リターンの推計は非常に困難ですが、今回のように小型グロース株と判明している場合は、ベータ推計時の重回帰分析の決定係数が高くなることが多く、3ファクターモデルの方が説明力が高く正確であると判断できます。
株式ポートフォリオの投資スタイル分析
2つ目の例をご紹介します。株式ポートフォリオの投資スタイルの分析です。現在、年金基金などの機関投資家は運用マネージャーの選別や評価に投資スタイルを用いることが一般的となっています。
投資スタイルとは投資マネージャーの運用特性にもとづく分類であり、3ファクターモデルのように、バリュー株投資、グロース株投資、小型株投資、大型株投資などに分けられます。
投資スタイルを分類・評価するための株価指数がスタイル・インデックスであり、まさに3ファクターモデルから導かれた株価指数です。この投資スタイルの普及を学術的な研究で支持したのがファーマ・フレンチの3ファクターモデルです。3ファクターモデルにより、株式のリターンに企業規模およびバリュー/グロースを考慮することの重要性が広く認識されるようになりました。
例えば、株式ポートフォリオの投資スタイルが小型バリューであったとします。投資家がその株式ポートフォリオが確かに小型バリューであると確認するために、3ファクターモデルを用いて各ファクターのベータを時系列データから重回帰分析で推計します。重回帰分析の結果、例えば = 0.8、 = 0.7、 = 0.4が得られたとすると、 が0より大きいため小型株投資であり、 が0より大きいためバリュー株投資と判断でき、たしかに小型バリューであると判断することができます。
まとめ
- 3ファクターモデルはCAPMの拡張モデルであり、個別証券の期待リターンは市場ポートフォリオ、SMBファクター、HMLファクターで表される
- 3ファクターモデルは市場のアノマリーとして観測される小型株効果、バリュー効果を組み入れたもの
- 3ファクターモデルを使うことで、個別証券の期待リターンの推計や株式ポートフォリオの投資スタイル分析が可能になる