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メディア紹介社内勉強会モデルの拡張
「3ファクターモデル」では、個別証券の期待リターンの推計をよりきめ細かく行うことを狙いとして、市場ポートフォリオに対するリスク値に加えて、SMBファクター(時価総額)、HMLファクター(簿価時価比率)で表しました。
この記事ではモデルの説明力向上を企図しさらなる拡張を行ったものとして、マルチファクターモデルをご紹介します。
ファクターとは
株式などの資産や個別株について、リターンやリスクを説明する要因のことをファクターと言います。ファクターは、多数の証券に影響を与える情報であることが多く、その例としては、物価、GDP、金利、配当利回りなどが挙げられます。また、リターンの変動であるボラティリティ、個別企業の企業成長度や財務レバレッジ(=総資産÷自己資本)なども、ファクターになり得ます。
ファクターモデル
ファクターモデルとは、上記で紹介したようなファクターを複数用いて、個別証券のリターンやリスクを説明する式(モデル)のことです。 一般的に、以下のような式で知られています。
ただし、:個別証券のリターン 、:定数 、:個別証券の個目のファクターに対する感応度 、:ファクターのリターン、:個別証券の個別要因によるリターンを表します。
この式は、リターンが、各ファクターと個別証券の個別要因による変動で説明ができることを表しています。ファクターの数が1つの場合はシングルファクターモデルと呼ばれ、2つ以上の場合はマルチファクターモデルと呼ばれます。
このようなファクターモデルを活用することには、 次のようなメリットがあります。
- 個別証券のリターンの数理的な分析ができる
- ポートフォリオのリスクを、各ファクター(リターンの源泉)に基づいて管理できる
シングルファクターモデル
シングルファクターモデルの例としては、「CAPM」が挙げられます。CAPMでは、個別証券のリターンを、市場ポートフォリオの超過リターン (マーケット・ファクター)という1つのファクターのみで説明しています。これは、リターンの源泉が、マーケット・ファクターのみである、ということを示しています。
もちろん現実的には、個別証券のリターンを、マーケット・ファクターという一つのファクターのみで充分に説明することはできません。CAPMが発表された後、マーケット・ファクター以外にも多くのファクター(リターンの源泉)があると考えられ、様々なマルチファクターモデルが発表されてきました。
マルチファクターモデル
マルチファクターモデルの例としては、ファーマ・フレンチの「3ファクターモデル」が挙げられます。このモデルでは、マーケット・ファクター、サイズ・ファクター(SMB: Small Minus Big)、バリュー・ファクター(HML: High Minus Low)の3ファクターを用いて、個別証券のリターンを説明しています。
これは、CAPMで主張されたマーケット・リスクプレミアムに加え、サイズ・ファクターとバリュー・ファクターをリターンの源泉とみなし、それらが追加的なリスク・プレミアムとなることを主張したものです。その後の研究でも、モメンタムファクター(株価の直近リターンの強さ)を加えた4ファクターモデルや、収益性ファクター(企業の利益率)と投資ファクター(総資産の伸び率)を加えた5ファクターモデルなどが発表されています。
マルチファクターモデルの分類
マルチファクターモデルにおけるファクターの数や、何をファクター(リターンの源泉)とするのかについては、色々な組み合わせがあり、使う人によっても種類も色々です。一般的に、マルチファクターモデルは、使用するファクターによって主に以下の3つのカテゴリー、ファンダメンタルファクターモデル、マクロ経済ファクターモデル、統計ファクターモデル、に分類されています。
ファンダメンタルファクターモデル
企業規模、株価純資産倍率、配当利回り、財務レバレッジなどのような、個別企業の銘柄属性に基づくファクターを用いるモデル
マクロ経済ファクターモデル
金利、GDP、物価、経済指標、為替などのような、マクロ経済変数をファクターとして用いるモデル
統計ファクターモデル
因子分析や主成分分析のような統計的手法を用いて抽出したファクターを用いるモデル
マルチファクターモデルの活用例
マルチファクターモデルを活用することには、次のようなメリットがあります。
- 個別証券のリターンの数理的な分析ができる
- ポートフォリオのリスクを、各ファクター(リターンの源泉)に基づいて管理できる
例えば、個別証券のリターンを、物価、ドル円為替、金利という3つのファクターで説明することを考えてみましょう。この時、を資産のリターン、を物価の変化、をドル円の変化率、を金利の変化として、
というモデルを考えることになります。、、は各ファクターの感応度です。感応度の値が大きい(小さい)ファクターほど、個別証券のリターンに与える影響が大きい(小さい)ファクターであるということになります。
各ファクターの感応度である、、を推定することで、各ファクターがどのくらい個別証券のリターンにインパクトを与えるかを分析することができます。、、の実際の推定においては、過去数年分の、、、のデータを用いて重回帰分析を行うことが一般的です。
例えば、株式、について、、を推定した結果、
株式:
株式:
の結果が得られたとします。
この結果からわかることは、株式については物価に対する感応度が株式よりも大きいので、相対的に物価の影響を受けやすく、株式については金利に対する感応度が株式よりも大きいので、相対的に金利の影響を受けやすいということが分かります。
このように、リターンを各ファクター(リターンの源泉)で分解することで、個別証券のリターンがどのファクターからどの程度影響を受けるかという点で、詳細な分析を行うことができます。また、特定のファクターに対する感応度が大きいということは、そのファクターのリスクを取ることで、そのファクターを源泉としたリターンを期待しているということを意味しますが、同時に、そのファクターに起因するリスクが大きいということにもなります。
ポートフォリオに特定の銘柄を組み入れる際には、各ファクターの感応度やリスクを予め分析しておくことで、特定のファクターに対するリスクを過剰にとらないように管理することができます。 上記では、個別証券のマルチファクターモデルの活用を示しました。複数の株式で構成されるポートフォリオ全体に対しても、マルチファクターモデルを用いることで、上記と同様に各ファクターの観点からリターンやリスクの詳細な分析ができ、ポートフォリオのリスクを、各ファクターに基づいて管理できます。
上記の例でいえば、株式と株式では、ドル円為替のファクターに関する感応度がそれぞれ、、、でした。
この場合、二つの株式を等ウェイト()で保有すると、このポートフォリオのドル円為替ファクターの感応度は、
と計算でき、モデル上ではドル円ファクターの影響を除くことができます。
スマートベータ運用
CAPMに代表されるような伝統的なモデルは、市場連動ファクターのみに着目したもので、マーケット(市場)モデルともいいます。このモデルを前提とした運用は、インデックス運用やパッシブ運用と呼ばれており、株式の場合は個々の証券の時価総額に基づいて組入れウェイトを決定するものが一般的です。
上でご紹介したようなマルチファクターモデルを活用することで、市場連動ファクター以外のファクターをリターンの源泉とみなすことができます。その上で、一定のルールの下でポートフォリオ構築のロジックに組み入れ、上述の時価総額に基づくインデックス運用よりもリターンやリスクの面で良好な成果を獲得しようとする運用手法を、スマートベータ運用といいます。スマートは賢い、ベータは市場との連動性のことを表しており、例えば、サイズ、バリュー、高配当、低ボラティリティなどのファクターを活用したスマートベータ運用があります。
まとめ
- 3ファクターモデルは、マルチファクターモデルのひとつ
- マルチファクターモデルは、様々な指標がファクターとなり得るため、幅広く経済変数等を取り入れることで説明力を高めることが可能
- マルチファクターモデルを活用することで、個別証券のリターンのより詳細な分析ができる
- マルチファクターモデルを活用することで、ポートフォリオのリスクを、各ファクター(リターンの源泉)に基づいて管理できる