効用関数 -うれしさを定義する-
この記事の内容
- 効用関数 -うれしさを定義する-
- リスクとリターンについて
- 2つのゲーム
- 期待リターンだけではわからない「なにか」とは?
- 期待リターンが同じであればリスクは無いほうがうれしい。
- 人間のうれしさの感じ方に潜む「ある特徴」とは
- 効用(リターンとリスクの総合得点) の最大化
こんにちは、sustenキャピタル・マネジメント代表取締役の山口です。本日は、「効用関数」についてご紹介したいと思います。
リスクとリターンについて
投資を行うにあたって「収益(リターン)がいくら得られるのか」は、みなさん最も興味があることのひとつだと思います。一方で、投資と聞くと「損するかもしれない」、「リスクが怖い」などとマイナスのイメージを持つ人も少なくないでしょう。
さて、リターンといえば、銀行の普通預金の金利(利回り 0.001%)や、株式の値上がり益 10%など、ある程度数字でイメージしやすい一方で、リスクについては必ずしもそうでは無いかもしれません。
それは、リスクという言葉がわりと漠然とした言葉であり、普段の生活では様々な意味で使われていることも要因の一つであると考えられます。例えば、病気になるリスク、事故に遭うリスク、雨が降るリスクなど、日用品の値段が上がるリスクなど、至るところでリスクは存在しています。
このように、リスクは「危険性」や「悪いもの」の総称とされることが多いと言えますが、ことポートフォリオ理論においては、「不確実性」、「結果のばらつき度合い」という意味と考えておおむね差し支えありません。
リスク ≠ 危険 リスク = 不確実性、結果のばらつき度合
2つのゲーム
ここで、以下の 2 つのゲーム A、B を考えてみたいと思います。A と B のどちらか好きな方を選択することができます:
A. コインを投げて表がでれば2 億円がもらえる、裏が出ればなにももらえない B. コインを投げて表が出ても裏が出ても、常に(確実に)1 億円がもらえる
あなたは A と B のどちらを選びますか。 おそらくB を選ばれたのではないでしょうか?
それはなぜでしょうか?
こういったケースではまずは2つのゲームからどれだけのもうけ(リターン)が期待できるか、つまり2つのゲームのリターンの期待値を比べるということをする方が多いと思います。これらの期待値は:
A. 50% x 2(億円) + 50% x 0(億円) = 1(億円) B. 100% x 1(億円) =1(億円)
つまり、リターンの期待値(すなわち期待リターン)は両者とも 1 億円となり同じです。期待値だけでは優劣をつけることはできません。
では、なぜBを選ぶ人が圧倒的に多いのでしょうか?
期待リターンだけではわからない「なにか」とは?
これは、期待リターンだけではなく「期待リターン以外のなにか」も含めて私達の脳が判断しているからにほかなりません。
A にあって B にないものはなにか。それは「不確実性」で、これが先程申し上げたポートフォリオ理論でいうところの「リスク」に相当するものです。
A の期待リターンは 1 億円、リスク(=不確実性)はあり B の期待リターンは 1 億円、リスク(=不確実性)はなし
すなわち、
期待リターンが同じであればリスクは無いほうがうれしい。
と、判断していたといえます。リスクはかならずしも悪ではないものの、リスクをとってもとらなくても期待値が変わらないのであれば、できればリスクは取りたくない。言い換えれば、不確実なことは確実なことよりも(他の条件が同じであれば)それだけで価値は低いと判断していたということになります。
人間のうれしさの感じ方に潜む「ある特徴」とは
ここからが本題です。
ではなぜ、人は不確実性をさける傾向にあるのでしょうか?それを理解するための鍵は、人間のうれしさの感じ方に潜む「ある特徴」にあり、経済学では限界効用逓減の法則として知られています。
例えば、お酒を飲む人であれば、1 杯目のビールはとても美味しいが、2 杯目、3 杯目となるとそれほどではなくなってくるということはおわかりいただけるでしょう。
また、小学生の頃にもらったお年玉の 1 万円はかなりの大金だったのに、大人になった今 1 万円もらってもそこまででは・・というのは誰しもが経験することでしょう。
このように、 人間のうれしさの感じ方は得られたものが増えれば大きくなるものの、その増え方は段々と緩やかになっていくのです。
効用とはうれしさ、満足度のことで、それが逓減していくので効用の「増える量」が徐々に減っていくことを指しています(ちなみに限界とは marginal の直訳)。
ここで重要なのは、増える量=増え方の話であってうれしさそのものが徐々に減っていくといってるのではありません。社会人になり、すでに100万円持っているときに1万円もらうことは、子供のときのそれほどではないものの、やはりそれでもうれしいことには変わりありません。
さて次に、いくらリターン(賞金)があるとどのくらいうれしいか、の関係を数式やグラフで表すことに挑戦してみます。
人が感じるうれしさの特徴(限界効用逓減の法則)に従って、うれしさのレベルを仮置きしてみます。
A-1. コインを投げて表が出る → 2億円がもらえる → うれしさのレベルは100 とする A-2. コインを投げて裏が出る → なにももらえない → うれしさのレベルは0とする B. コイン投げの結果にかかわらず確実に1億円がもらえる → うれしさのレベルは60とする
このうれしさのレベル(=効用の高さ)はリターン(賞金)の高さで決まっていますので、この二つの関係は関数(効用関数)の形で表すことができます。ここではリターン(賞金)をとし、効用の高さをで表すことにします。また、ゲームAの効用の期待値を、ゲームBの効用の期待値をと表すことにします。
とは、それぞれどのくらいの「うれしさ(効用)」になるでしょうか?
Aの場合、表が出たときの効用は、裏が出たときの効用は、となります。公平なコインの場合それぞれ50%の確率で起きるので、期待値はそれらの平均値となります。
一方Bの場合は、コインなど関係なくとなります。
まとめると、A, B で得られる効用の期待値およびはそれぞれ、
となります。
これを図で示すと以下のようになります。
ここで、効用の形が上に凸(上に膨らんだカーブ状)になっているからこそこのような関係がなりたつことがおわかりいただけるでしょうか?効用の形が直線で膨らんでいない場合や、下に凸であった場合は結果が変わります。
一般に上に膨らんでいる効用関数の場合、必ず 「効用の期待値: 」<「効用の期待値: 」 が成立します。
リターンの期待値 での比較だと両方1億円で区別がつかなかったものが、効用の期待値 で考えるとBのほうが優れており、さきほどの私達の判断と整合性のある結果になりました。
不確実性を避けたい人 = 効用関数が上に凸 = 限界効用逓減
効用(リターンとリスクの総合得点) の最大化
人間のリスク(不確実性)を避けたいと思う「心理」と「効用関数の形状」に密接な関係があることがわかりました。リスクをどれだけ嫌うのかの度合いには個人差があり、一つの効用関数で万人の効用を正確に説明するのは困難です。しかしながら、このように一定の前提をおいたモデルを用いることで、感覚に頼ることなく不確実性を伴うゲームなどの比較を定量的に行うことができるようになるので便利ですよね。
ちなみにこの考え方は 期待効用仮説(理論) と呼ばれています。人間は不確実性を伴う意思決定を行うときに「リターンの期待値」ではなく、「効用の期待値」を最大化するように行動するのだという仮説をおき、その仮説を元に複雑な経済活動を説明しようとする理論です。
資産運用では、リターンや利回りのみに着目していると落とし穴にはまることがあるので、リターンだけではなくリスクも同じように気をつける必要がある。そのためには、リターンとリスクの総合得点(=効用) が最大になるように行動することが合理的な選択であると言えるのではないでしょうか。
以上を踏まえて次回はリスク・プレミアムの考え方をご紹介したいと思います。
執筆者
山口 雅史、CMA
代表取締役 最高投資責任者