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メディア紹介社内勉強会PCEデフレータとCPIの違いとは?
sustenキャピタル・マネジメントです。いつも当社サービスをご利用いただきありがとうございます。
前回は『Greenファンドの基準価額下落と米金融政策の関係性、およびファンドの今後の見通しにつきまして』(2023年10月23日)のレポートにおいて、米国の政策金利と物価上昇率(以下「インフレ率」)の関係についてお伝えいたしました。
米国の政策金利を決定する米連邦準備制度理事会(FRB)では、米国内のインフレ率の動向を把握するための指標として個人消費支出(PCE)デフレータ(以下「PCEデフレータ」)が重視されていますが、本記事ではこのPCEについてより詳細にご紹介いたします。
暮らしを直撃するインフレーション
米国のみならず、日本においても、このところ物価上昇を感じることが増えてきているのではないでしょうか。 日本の物価上昇率は足元では前年同月比で+3.0%と発表されており(※1)、2021年以降じわじわと上昇基調が続いていました。
一方米国において直近の物価上昇率は+3.5%と、日本よりもやや高めの結果が出ています。(※2)長くデフレを経験してきた日本と違い、もともと米国ではゆるやかにインフレーション(以下「インフレ」)の状態が継続してきたものの、2021年以降は次のグラフの通り非常に強いインフレに見舞われており、人々の生活を直撃しています。
米国と日本の物価上昇率の推移(対前年比)
ところで物価上昇率は、どのように計測されているのでしょうか。
自分が普段買い物に利用している店舗で値上げを感じたとしても、それをもって社会全体でインフレが進行しているとは言えません。経済政策を検討する上では、より広範かつ客観的な観測に基づいたデータが必要です。
米国の政策金利を決定するFRBにおいては、先のレポートでご紹介した通り、FRBは個人消費支出(PCE)デフレータと呼ばれる指標によってインフレ率をモニターしています。物価上昇を示すデータとしては、他に消費者物価指数(CPI)と呼ばれる指標もありますが、PCEデフレータとCPIは具体的に何が異なるのでしょうか。
※1 2023年9月の消費者物価指数(CPI)発表値
※2 2023年9月の個人消費支出(PCE)デフレータ発表値
個人消費支出(PCE)デフレータと消費者物価指数(CPI)
PCEデフレータもCPIも消費者による財・サービスの消費額の変化を計測するという点では似た指標ですが、定義が異なります。極端なケースでは、同時期に発表されたCPIとPCEデフレータで逆の結果を示す場合もあるほどです。
個人消費支出(PCE)デフレータの特徴
個人消費支出(PCE)デフレータは、米国の家計が米国国内全体において消費した財やサービス価格の変動を調査・算出した経済指標です。毎月の公表は米商務省(BEA)が行います。
米国では個人消費がGDPの約7割を占めることから、PCEデフレータは国内総生産(GDP)の先行指標として扱われています。
FRBが2%の目標インフレ率を設定していることは比較的知られていますが、具体的には「PCEデフレータで評価した物価上昇率が、長期的に2%程度となること」を目標としています。2023年11月現在、目下では行き過ぎたインフレ率を抑えることを掲げており、段階的な金融引き締めによってこれを達成しようとしているのです。
PCEデフレータ(前年比)の値は徐々に低下しているものの、2022年6月には6.8%まで上昇したことが記録されており、目標である2%以上を大きく上回る過熱気味の経済であったと見て取れます。
コアPCEデフレータの特徴
PCEデフレータには、コアPCEデフレータなる関連指数が存在します。コアPCEデフレータは、価格変動の激しい食品とエネルギーを除いたものであり、季節的・一時的要因による影響が少ないとされています。
過去のPCEデフレータとコアPCEデフレータの推移を確認すると、コア値のほうがPCEデフレータよりも安定的な動きであることが一目瞭然です。
米PCEデフレータとコアPCEデフレータの推移
米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ動向を判断する際にPCEデフレータとともにコアPCEデフレータを用いています。(※)
FRBは金融政策の決定において、インフレ目標の達成に向けて長期の物価情勢に注目しています。コアPCEデフレータをPCEデフレータと併せて利用することで、より本質的なモニタリングが可能だと考えられます。(※)
※参考 BOARD OF GOVERNORS of the FEDERAL RESERVE SYSTEM. “Monetary Policy Report”. https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/publications/mpr_default.htm Bureau of Economic Analysis. ”Personal Consumption Expenditures Price Index, Excluding Food and Energy”. https://www.bea.gov/data/personal-consumption-expenditures-price-index-excluding-food-and-energy
消費者物価指数(CPI)の特徴
消費者物価指数(CPI)とは、都市部の消費者が購入する財やサービスの小売価格の変動を調査・算出した経済指標です。米労働省労働統計局が毎月1回発表しています。
ある時点を基準とし、同等のものを購入した際に価格がどのように変動したかを表しており、物価の変化の様子を測定する指数として扱われています。
CPIは対象とする財によって複数に分類されますが、中でも季節的要因で価格が変動しやすい生鮮食品を除いたコアCPIが重要とされています。
PCEデフレータとCPIの違い
PCEデフレータとCPIは、いずれも消費者が購入した財・サービスの価格を集計した指標である点では同じです。
しかし計測対象や計算方法が異なることから、具体的な違いについても比較してみます。
主な違いは以下の5点です。
- PCEデフレータは企業調査、CPIは家計調査です。 PCEはNIPA(National Income and Product Accounts・国民所得・生産勘定)と呼ばれる調査を利用しており、企業が消費者に対して販売したものを計測しています。CPIはConsumer Expenditure Survey と呼ばれる消費支出調査のデータが情報源となり、回答者は消費者です。
- PCEデフレータはCPIに比べ計測対象が広範囲となります。 PCEデフレータは米国内での消費場所を絞らず、すべての国内消費者を対象としています。一方CPIの計測対象は種目は都市部で消費された財・サービスとされているうえ、対象者も都市部の消費者に限られます。
- PCEデフレータとCPIでは、医療費の扱いが異なります。 PCEデフレータは医療保険等により支払われた金額を対象としますが、CPIでは消費者自身が自腹で支払った金額のみ計測対象となります。
- PCEデフレータとCPIは計算方法が異なります。 PCEデフレータは連鎖方式と呼ばれるアプローチにて、消費者が代替品を購入した場合の場合などの行動の変化をより細かに反映しますが、CPIは消費者行動の変化が起こっても特にウェイトの調整は行いません。
- PCEデフレータとCPIは発表時期が異なります。 PCEデフレータは調査対象月の翌々月始めに発表されます。CPIは計測対象月の翌月15日前後に発表されるため、PCEデフレータよりも早く発表されます。
補足:PCEデフレータとCPIの計算方法の違い
※参考 BOARD OF GOVERNORS of the FEDERAL RESERVE SYSTEM. “Summary of Economic Projections”. https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomc20120125sepcompilation.htmNoah Johnson, Bureau of Labor Statistics. “A comparison of PCE and CPI: Methodological Differences in U.S. Inflation Calculation and their Implications”. https://www.bls.gov/osmr/research-papers/2017/pdf/st170010.pdf
Clinton P. McCully, Brian C. Moyer, and Kenneth J. Stewart, Bureau of Labor Statistics. "Comparing the Consumer Price Index and the Personal Consumption Expenditures Price Index”. https://apps.bea.gov/scb/pdf/2007/11 November/1107_cpipce.pdf
PCEデフレータが物価上昇率の指標として採用される理由
PCEデフレータとCPIの違いを比較すればわかるように、PCEデフレータの方が計算対象となる範囲が広く、また消費者の行動変容に追随して計算されることから、より実態経済に近いデータと言えます。
CPIは計測対象が都市部における消費のみとなりますが、PCEデフレータは米国全体の消費を対象としています。
PCEデフレータの連鎖方式と呼ばれる計算方法においては、四半期ごとに消費財のウェイトを反映します。これはCPIで採用される計算方法よりも、消費者の消費パターンの変化をより早く正確に反映できます。
例えば牛肉の価格が上昇すれば、消費者は支出を抑えようと牛肉の購買数を減少させるかもしれません。一方で消費者は代替品として、豚肉や鶏肉を選択する可能性もあり得るため、期ごとに牛肉・豚肉・鶏肉に対する支出割合は変化することが考えられます。
CPIはこうした支出割合の変化を反映せず、基準年の割合が固定されるラスパイレス指数という計算方法を用いています。PCEデフレータが用いる連鎖方式ではこうしたウェイトの変化を計算に組み入れた値を算出すると決められています。すなわち、PCEデフレータは消費者の消費パターンの変化をより正確に反映できるのです。
また他の特徴で言えば、PCEデフレータは政府・企業負担分の医療費を含めて反映することから、医療費のウェイトが高い傾向にあります。他方CPIは住居費のウェイトが4割程度と最も高くなります。
過去の指標の推移とそれが表すもの
実際に過去のPCEデフレータとCPIを確認すると、CPIの方がやや強い変動幅をもって推移していることがわかります。
米PCEデフレータとCPIの推移
CPIは基準年のウェイトが固定されるとお伝えした通り、低価格品への代替効果が反映されていないため、物価が上がる局面でよりPCEデフレータよりも高い値が出る傾向にあります。
グラフにおいて、物価上昇が起きている各指数の山が発生した場面でCPIとPCEデフレータの差が顕著に見られる理由として、低価格品への代替効果が表れていることが考えられます。
CPIのほうが発表時期が早いため、米国の物価動向を速やかに把握する意味では有効であるものの、PCEデフレータと比較するとこうした差が発生する点には注意が必要です。
なお、過去のPCEデフレータと米政策金利の関係性についてはこちらのレポート(『Greenファンドの基準価額下落と米金融政策の関係性、およびファンドの今後の見通しにつきまして』|2023年10月23日)もご確認ください。
おわりに
昨今世界的に進行していたインフレの状況、そして背景を理解するためには、FRBが指標とするPCEデフレータにも目を向けてみる必要があります。
似た指数であるCPIの特徴も知っておくことで、各指数の公表値がどのような意味を持つか推察することに役立ちます。
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