ARP(オルタナティブ・リスク・プレミアム)
この記事の内容
「投資理論の基礎」では、最後にファクター投資の概念とその有効性についてご紹介しました。今回は、具体的なファクター投資の手法についてご説明した上で、ARP(オルタナティブ・リスク・プレミアム)の導入についてご紹介します。
スマート・ベータ
ファクター投資で最も有名な手法がスマート・ベータです。スマートベータとはバリュー、ディフェンシブなどのスタイル・ファクターに投資する手法のことで、市場連動ファクター以外のファクターのエクスポージャーも取ることを目的としています。スマートベータはETFなどで提供されており、低コストで流動性の高い投資手法と言えます。
スマートベータの明確な定義は確立されていませんが、主に個別株式を投資対象としており、ロング・オンリー(買い持ちポジションのみ)の投資戦略であることが一般的です。
スマートベータの具体例をご紹介します。日本で有名なスマートベータETFとして、高配当型、低ボラティリティ型、バリュー型などがあります。
低ボラティリティ型のETFでは個別株式の中でもボラティリティが低い(値動きが比較的緩やかな)銘柄を中心に選定されています。これは広く認識されているファクターの1つであるディフェンシブ・ファクターに投資する戦略となります。低ボラティリティ型では、日本の個別株式を対象に、例えばボラティリティが下位20%の銘柄を選定して作成されます。比較的ボラティリティが低い銘柄で構成されることになり、ディフェンシブ・ファクターに偏ったポートフォリオを作ることができます。ディフェンシブ・ファクターに投資したい投資家は、このような低ボラティリティ型のETFに投資をすることでディフェンシブ・ファクターのエクスポージャーを取ることができます。
近年スマートベータが流行しているのは、伝統的な株式アクティブ運用に比べ、以下のようなメリットがあるからです。
- 伝統的な株式アクティブ運用が収益源としていたものが、実はスタイルファクターで説明できるため、スマート・ベータで代替が可能なケースがある。
- あらかじめ定められたルールに基づいて銘柄が選定されるため、高い透明性がある。
- ルールベースな投資手法であることから、比較的低コストで提供されているケースが多い。
一方、スマート・ベータのデメリットも存在します。
- 個別株式を投資対象としているものがほとんどで、株式以外のスタイル・ファクターに投資ができない。
- 個別株式のロングオンリーの投資手法であるため、スタイルファクター以外にも市場連動ファクターのエクスポージャーが相当程度含まれる。
先程の低ボラティリティ型のETFの例を考えます。投資対象は個別株式であるため、債券や通貨など株式以外のディフェンシブ・ファクターのエクスポージャーは含まれていません。低ボラティリティの株式のロングオンリーで構成されるため、株式のディフェンシブ・ファクター以外に、市場連動ファクターも含まれることになります。株式市場が低迷する時期には、市場連動ファクターの影響を受け、低ボラティリティ型ETFのパフォーマンスも悪化してしまいます。
オルタナティブ・リスク・プレミアム
個別株式以外の資産に投資でき、市場連動ファクターを除いたピュアなスタイルファクターに投資する手法とはどのようなものでしょうか。それがオルタナティブ・リスク・プレミアム(Alternative Risk Premiam、ARP)です。オルタナティブ・リスク・プレミアムとは、株式インデックス、債券、通貨、コモディティなどの個別株式以外も投資対象としており、ピュアにスタイルファクターのエクスポージャーを取るためにロング・ショート(買い持ちと売り持ち)のポジションであることが特徴です。
オルタナティブ・リスク・プレミアムの具体例をご紹介します。モメンタムと呼ばれるスタイルファクターがありますが、これは直近のプライスの傾向が将来も続くというアノマリーに投資するファクターです。具体的には、過去xヶ月(x年)のリターンが優れた資産は今後も優れたパフォーマンスを提供するだろうと考え投資する手法です。
例えば、通貨のモメンタム・ファクターに投資するオルタナティブ・リスク・プレミアムは、各通貨の中で過去1年のパフォーマンスが良いものをロング、悪いものをショートして作成されます。例えば、〇〇年〇月時点で過去xヶ月のリターンに着目するならば、ドルとポンドをロング、円とスイス・フランをショートのようなポジションになるでしょう。
それでは、オルタナティブ・リスク・プレミアムのメリットをご紹介します。
- ヘッジファンドが収益源としていたものが、実はスタイルファクターで説明できるため、オルタナティブ・リスク・プレミアムで代替が可能なケースがある。
- スマート・ベータと異なり、個別株式以外の資産(株式インデックス、債券、通貨、コモディティなど)に投資が可能。
- スマート・ベータと異なり、ロング・ショートのポジションを取るため、市場連動ファクターを除いたピュアなスタイル・ファクターに投資が可能。
- あらかじめ定められたルールに基づいて銘柄が選定されるため、高い透明性がある。
- ルールベースな投資手法であることから、比較的低コストで提供されているケースが多い。
オルタナティブ・リスク・プレミアムはヘッジファンド的、ヘッジファンドの代替と言われることがあります。これは、オルタナティブ・リスク・プレミアムの投資手法が株式以外の資産も投資対象としていること、ロング・ショートのポジションを取っていることに起因します。つまり、投資手法そのものが伝統的な株式や債券への投資ではなく、ヘッジファンド的であるということです。
また、従来ヘッジファンドが提供していたリターンが、オルタナティブ・リスク・プレミアムを収益源としている場合があることが明らかになり、ヘッジファンドよりも低コストなオルタナティブ・リスク・プレミアムに切り替える動きなどもあり、ヘッジファンドの代替として扱われることがあります。(ヘッジファンドの場合、市場連動ファクターに影響されにくい良好なリターン確保をうたう戦略が多い点は似ていますが、総じて成果報酬を中心とした高い運用報酬を支払う必要があります。)
一方、オルタナティブ・リスク・プレミアムにもデメリットが存在します。主に投資手法の複雑性に由来するデメリットが考えられます。
- 個別株式以外(株式インデックス、債券、通貨、コモディティなど)も対象かつショートポジションも取るため、先物などのデリバティブが使用されることが多く、金融商品の複雑さに起因して投資が困難。
- 投資の複雑さからETFで提供されているケースが少なく、オルタナティブ・リスク・プレミアムへのアクセスが困難。
- スマート・ベータより高コストであるケースが多い。
ファクター投資の他の用語として、オルタナティブ・ベータ、エキゾチック・ベータ、スタイル・プレミアム、とさまざまな用語で呼ばれることがありますが、これらは概ねロング・ショートのファクター投資を指しており、オルタナティブ・リスク・プレミアムとほぼ同義です。
なお、ファクター投資のリスクとしては、個々のファクターが機能しなくなる(アノマリーが解消され、ファクターが消失する)可能性があること、ルールベースであることから市場ストレス環境下などでも機動的な対応が困難であること、が挙げられます。
アルファのベータ化
最後に、スマートベータやオルタナティブ・リスク・プレミアムの発達でアルファやベータの概念がどのように解釈できるかご説明します。
資産評価理論が発達し、新たなファクターが追加されるにつれ、これまでアクティブ運用者による「CAPM」に対するアウトパフォーム(アルファ)と思われていたものは、実はスタイルファクター(サイズ、バリューなど)に対するベータの結果であることが判明してきました。
投資家は市場連動ファクターやスタイル・ファクターについては伝統的なアクティブ運用に頼ることなく、低コストなファクター投資を活用することが有効と考えられます。また、従来ヘッジファンドが担ってきたアルファの領域についても一部オルタナティブ・リスク・プレミアムで代替できることから、高コストなヘッジファンドより低コストなオルタナティブ・リスク・プレミアムの方が有利な選択肢となってきています。
投資理論の発達につれ、徐々にアルファの領域が狭くなってきており、スタイル・ファクターでは説明できないリターンを獲得することがアクティブ運用やヘッジファンドで求められるようになってきています。投資家に求められていることは、アクティブ運用やヘッジファンドに投資する際に、スタイル・ファクターでは説明できない真のアルファ(アウトパフォーム・アンダーパフォームする証券・セクター・資産・ファクターへの戦術的資産配分による得られるリターンなど)を提供しているか、を見極めることが重要になってきています。投資家としては、そのようなアルファを生み出すアクティブファンドを探し出して投資する動きと、低コストなファクター投資を選択する動きが考えられます。
オルタナティブ・リスク・プレミアムといったスタイルファクターへの投資は、様々なスタイルファクターのエクスポージャーを取ることが可能であり、長期的な投資手法として検討に値するでしょう。
まとめ
- ファクター投資の手法としてスマートベータやオルタナティブ・リスク・プレミアムが存在する。
- スマートベータは個別株式、ロングオンリーの投資手法。
- オルタナティブ・リスク・プレミアムは全資産を対象、ロング・ショートの投資手法。
- 投資理論の発達により、伝統的なアクティブ運用やヘッジファンドのアルファの解明が進んでいる。
- 従来のアルファには、実はスタイルファクターで説明できる部分が含まれていることが判明し、スマートベータやオルタナティブ・リスク・プレミアムで代替が可能。
- 様々なスタイルファクターに投資ができるオルタナティブ・リスク・プレミアムは、長期的な投資手法として有効。
執筆者 運用本部 殿本 隼人、CFA