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この記事では、統計の基礎である期待値の基本的な考え方と、その使い方について解説します。期待値とは、将来決まる(今の時点では決まっていない)値がいくらになりそうか、を示すものです。期待値を活用することで、合理的な意思決定ができるようになります。
期待値の考え方
さいころの出る目の期待値
さいころを1回投げたとき、出る目の期待値はいくらでしょうか。
高校の数学で習った記憶のある方もいらっしゃるかと思います。結論からいきますと、期待値は3.5となります。期待値は、「発生する値」×「その発生確率」を足し合わせていくことで計算できます。つまりこの場合、「出る目」×「その目が出る確率」を足し合わせていくことで、期待値が計算できます。
出る目 | 1の目 | 2の目 | 3の目 | 4の目 | 5の目 | 6の目 | 合計 |
確率 | 1/6 | 1/6 | 1/6 | 1/6 | 1/6 | 1/6 | 1 |
出る目×確率 | 1/6 | 2/6 | 3/6 | 4/6 | 5/6 | 6/6 | 21/6 = 3.5 |
表のように、期待値は、
と計算できます。
さいころの出る目の期待値が3.5であることは確認できました。さて、これは一体何を意味しているのでしょうか。
期待値は、発生する値をその発生確率で掛け算し、それらを足し合わせた値でした。確率というのは物事の起こりやすさを表し、何度も繰り返し行うとどのくらいの頻度で発生するかを示す値(割合)です。
出る目の期待値が3.5であるというのは、何度もさいころを投げ、出た目を平均していくと3.5(期待値)に近づいていく、という意味になります。ここで注意すべきは、さいころを1回投げた時に必ずしも3.5(期待値)がさいころの目として現れるわけではない、ということです。これは、さいころに3.5という目がないことからも明らかです。
さいころを1万回投げてみた
「何度もさいころを投げ、出た目を平均していくと3.5(期待値)に近づいていく」と記しました。何度もさいころを投げるという数値シミュレーション(モンテカルロ法)を行い、確認してみます。
さいころを1回、10回、100回、1,000回、10,000回と投げていき、実際に出た目の数を用いて、出た目の平均値を計算した結果が以下の表のとおりです。
投げた回数 | 1の目 | 2の目 | 3の目 | 4の目 | 5の目 | 6の目 | 合計(目×発生回数) | 平均値(合計÷投げた回数) |
1回 | 0回 | 0回 | 0回 | 0回 | 1回 | 0回 | 5 | 5 |
10回 | 0回 | 3回 | 1回 | 2回 | 2回 | 2回 | 39 | 3.9 |
100回 | 21回 | 21回 | 11回 | 8回 | 23回 | 16回 | 339 | 3.39 |
1,000回 | 172回 | 171回 | 164回 | 148回 | 179回 | 166回 | 3,489 | 3.489 |
10,000回 | 1,654回 | 1,673回 | 1,651回 | 1,686回 | 1,661回 | 1,675回 | 35,052 | 3.505 |
投げた回数が10回の場合、出た目の平均値は3.9となりました。さらに、10,000回まで投げると、出た目の平均値が3.505となりました。投げる回数を増やすと、出た目の平均値が3.5(期待値)に近づいていることが分かります。
下のチャートは、さいころを2万回投げるシミュレーションを行った時の、出た目の平均値の推移です。さいころを投げる回数を増やすと、出た目の平均値は期待値である3.5に近づいていることが分かります。
ちなみに、投げる回数を増やせば増やすほど、それぞれの出る目の発生確率は理論値に近づいていきます(さいころの例ではどの目も1/6≒16.7%)。これを大数の法則と言います。
また、上のシミュレーション結果から発生確率(さいころの目の発生回数を、投げた回数で割った数)を計算すると下の表のようになります。10,000回も繰り返していると、それぞれの出る目の発生確率が理論値(1/6≒16.7%)に近づいていることが分かります。
投げた回数 | 1の目 | 2の目 | 3の目 | 4の目 | 5の目 | 6の目 | 合計(目×発生確率) |
1回 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 100.0% | 0.0% | 5 |
10回 | 0.0% | 30.0% | 10.0% | 20.0% | 20.0% | 20.0% | 3.9 |
100回 | 21.0% | 21.0% | 11.0% | 8.0% | 23.0% | 16.0% | 3.39 |
1,000回 | 17.2% | 17.1% | 16.4% | 14.8% | 17.9% | 16.6% | 3.489 |
10,000回 | 16.5% | 16.7% | 16.5% | 16.9% | 16.6% | 16.8% | 3.505 |
期待値の応用
さて、期待値を用いて以下のような例を考えてみましょう。
投資案件
50%の確率で200万円、50%の確率で80万円が得られる投資案件があります。 ただし、この投資には100万円の初期投資が必要です。
投資案件というのは、ビジネス上の設備投資と考えても良いですし、株への投資などと置き換えて考えても良いです。この投資案件に参加するべきでしょうか。
この投資案件の期待値は、200万円×50% + 80万円×50% = 140万円です。
初期投資に100万円を要するので、期待できる利益は、140万円-100万円 =+40万円となります。プラスの利益が期待できるので、この投資案件に参加するのは合理的である、という判断ができます。ちなみに、この+40万円というのは、何度も同じ投資案件に投資した場合に1回あたりの平均利益が+40万円となるという意味です。1回の投資で利益が必ず+40万円となるわけではありません。
くじ引き
次のようなくじ引きの例ではどうでしょうか。1等~7等までの賞金が用意されており、各等の当選金額と当選確率が表のようになっているとします。100円払えばこのくじ引きに参加できますが、参加するべきでしょうか。
100円払ってくじ引きに参加したときの当選金額と確率
等 当選金額 当選確率 1 1億円 1/20,000,000 2 1,000万円 1/10,000,000 3 100万円 1/2,000,000 4 10万円 1/50,000 5 1万円 1/30,000 6 1,000円 1/200 7 100円 1/100 8 0円 1~7等以外全て
期待値を計算してみます。
期待値は、発生する値(当選金額)をその発生確率(当選確率)で掛け算し、それらを足し合わせた値でした。
期待値は26.8円と分かりましたが、くじ引きに参加するためには100円払う必要があるので、期待できる利益は、26.8円-100円 = -73.2円となります。このくじ引きに参加すると、1回あたり平均で73.2円の損失が出ることを意味しています。
期待値がマイナスでも、わずかな確率にかけて購入する!という判断は合理的ではありません。この考え方はギャンブルに近い考え方です。数回程度このくじ引きを行い利益が出ればラッキーですが、利益が出ずムキになって何度もくじを引いていると、どんどん損失が拡大していくことになります。期待値から考えた利益がマイナスとなる場合は、参加するという判断は合理的ではありません。
このように、期待値は意思決定の指標として使用することができます。
期待値が同じでも・・・
期待値を検討することで、その意思決定が合理的かどうかを把握できることがわかりました。ただ、例えば2つの選択肢が与えられ、そのどちらの期待値も同じだった場合、必ずしもその2つの選択肢の価値が同等であるという結論にはならない、ということにも注意する必要があります。
例えば、以下の例を考えてみましょう。A、Bのどちらに参加したいと思うでしょうか。
A:100万円を投資すると、50%の確率で115万円となり、50%の確率で99万円になる。 B:100万円を投資すると、50%の確率で200万円となり、50%の確率で14万円になる
期待値を計算すると、A、Bどちらの期待値も107万円(期待できる利益が7万円)となります。仮にあなたに莫大な資産があり、何度でも挑戦できるのなら、A、Bのどちらを選んだとしても最終的な利益の平均値は同じになることが期待できます。
しかし、だからといってA、 Bどちらを選んでも結果は同じだ、と考えるのは少し無理があります。なぜならば、AとBの結果のばらつき度合が異なるためです。
実は、まさにこの結果のばらつき度合こそが、金融の世界でリスク(標準偏差)と表現されているものです。Aの方が低リスクで、Bの方が高リスクである、ということがなんとなくお分かりいただけるかもしれません。A、Bの選択は、その人がどの程度リスクを受け入れられるかによって変わります。(「リスク(標準偏差)」については、別の記事で改めてご紹介したいと思います。)
複数の選択肢が与えられたとき、期待値から考えた利益が同等だからと言って、それらの選択肢が同じ価値を持つという結論をすぐに出すのはやめた方が良さそうです。
まとめ
- 期待値は、将来起こり得る値の平均値である
- 期待値がマイナスであれば、参加することは合理的ではない
- 期待値がプラスであれば、参加することは合理的であるが、最終判断ではリスク(ばらつき度)などを考えることも大切